クリスマスイブの人体植物カテゴリの記事一覧

あらすじ

大学生の永峰なぎさは、自分の美しさに自信を持ちながらも、さらにもっと綺麗になりたいと願っていた。
あこがれの美しい先輩の家に遊びに行ったとき、赤い花が花瓶に生けてあるのを目にする。

訊くと、その花は人の胃に根をはって咲いた人体植物の花であり、花を手に入れてから自分の姿が日増しに美しく変わっていったという。
しかも、もう一年以上経つのに、花は枯れない。

永峰は、花が欲しくてたまらなくなり、先輩が花を手に入れた家を訪ねる。用件を告げると、男が部屋に通してくれた。
男の差し出した紅茶を飲んで気分が悪くなった永峰は、体調が悪くなり身動きが取れなくなる。
そして男から、花は百万円で販売していて、お金を払えない人間は花を栽培するのに適した美しい女性を提供することになっているという説明を受け、自分が先輩に売られたのだと気が付く。

永峰は自分の体の異常が、胃に植物が育ち始めているためだと気が付く。

クリスマスイブの人体植物

 壁の時計を一瞬見て目をふせた。
 午後十一時五十分。あと十分で今日が終わり、クリスマスイブの一日が始まる。
「なぎさは、今のままでもうらやましいくらいに綺麗よ。私がいうんだから間違いない。もっと美しくなりたいなんて思ったら、ばちが当たるわ」
 綺麗になりたい、という言葉に反応して玲子先輩が言った。
 細い小指を立て、慣れた手つきでティーカップに紅茶を注ぐの仕草は、私では到底まねができないほど優雅で可憐だった。
「テニス部の中じゃあ、なぎさちゃんが一番かわいいって男の子の間で評判よ。明日のクリスマスイブ、本当はもうデートの相手は決まってるんじゃないの?」
 私は玲子先輩と同じテニスサークルに入っている。テニスは高校に入ってから始めたのだけれど、運動音痴の私はほとんど上達していない。
「冗談はやめてください。私なんて玲子先輩に比べたら、雑草もいいところ。物好きな男の人がたまにかわいいねって褒めてくれるだけです」
 そうは言ってみたものの、自分の美貌に自信を持っていないわけではなかった。中学時代から数えると、何人もの男の子に告白された。そのうち何人かの男と付き合ってみたもののすぐに何となく別れた。理由は簡単、私は一人の男の子と付き合うよりも、数え切れないほど多くの男たちを従えて、「かわいいね」「何でもしてあげるよ」とちやほやされていたいのだ。
 玲子先輩は繊細で美しいのに、男の影がない。サークルでも噂は聞かない。私にとっては不思議なことだった。先輩くらい綺麗なら男を操ることなどたやすいだろうに。男に興味がないのだろうか。
「先輩も彼氏いないんですよね。先輩なら男の子たちが放っておかないと思うんですけれど、誰かと付き合おうとは思わないんですか?」
 玲子先輩は、カップを口に運んだ。薄ピンクのマニキュアが優しく輝いた。
「高校生の間は自分を磨く期間。誰とも付き合うつもりはないわ」
「自分を磨く?」
「そう。いい女にはいい男が寄ってくるものよ。だから、彼氏は作らないで、いい男が黙っていないような高級な女性になるために努力するのが今の課題なの。だから、美しくなるためだったらどんなことでもするわよ」
「先輩はすごく綺麗なのに、更に努力しているんですか?」
「痩せた女性がさらに痩せたいと願う。金持ちの人間がさらに金が欲しいと願う。それは自然な欲望よ。誰にも止められないわ」
 私にはもっと綺麗になりたいと思ったらばちが当たると言っておいて、自分はもっと美しくなりたいと思っているのか。性格悪いわね。
 でも、先輩の考えは共感するところが多い。やっぱり、私も美しくなるために努力しているし、もうこれだけ綺麗になったのなら十分だとは思えない。
「私も先輩のように誰からも綺麗だと言われるような女性になりたいんです。もっと美しくなるためにはどうしたらいいんでしょう。もし、先輩のやっていることで参考になりそうなものがあるなら教えてください」
 玲子先輩は、細い指をあごに当てた。
「そう。ねえ……」
 遠くを見つめながら、ため息混じりに、色っぽく息を吐き出した。ここに男がいたら一瞬で恋に落ちただろう。
軽い沈黙の後、先輩は壁の時計を見ながら口を開いた。
「花でも飾ってみる?」
 思いもよらない言葉に、
「花?」と笑いながら聞き返した。
しかし、玲子先輩はいたってまじめな顔をしている。
黙って見つめる目線の先を追うと、牛乳瓶のような格好をした花瓶に、茎の細い花が一輪だけ生けてあった。茎は細いのに生き生きしていて、今さっき摘んだかのようにまっすぐに延びていた。その先には、見たこともないほどに濃い赤色をした花が咲いている。
不思議だったのは、さっきまでは赤い花はつぼみだったことだ。先輩の部屋に入ったときに花が飾ってあることは気が付いたけれど、咲いてはいなかった。
「花瓶の花。私が来たときは、まだ咲いていなかった気がしますけど……」
 風が窓を揺らしたとき、暖房の暖かさで火照った先輩の頬がかすかに動いた。
「その花はクリスマスイブにしか咲かないの。だからちょうど今、つぼみが開いたのよ」
「クリスマスイブにしか咲かない花?」
 先輩は睨むように鋭い目を私に向け頷いた。真剣な表情に押され、疑問を口にすることができなかった。 
「何ていう花なんですか?」
「名前はないわ。強いて言えば、人体植物ね」
 現実的で理論派だと思っていた玲子先輩の口から、クリスマスイブにしか咲かない花だとか、人体植物などという空想的な言葉が次々に出てくるとは思わなかったから、笑いが込みあげた。
 それにしても、クリスマスイブにしか花を咲かせない人体植物って何だろう? 人の体の形をした植物っていう意味にも思えるけれど、どう見ても普通の花だ。
「人体植物が何だか気になる?」
 口元をゆるませ問いかける姿は、明らかにじらして楽しんでいるに違いなかった。
「はい。とっても」
 先輩は舌を湿らせるように少しだけ紅茶に口を付けてから話した。
「高校時代のことなんだけど、佐知子っていう友達がいたのね。かわいいし勉強もスポーツもできたから、クラスの男子に人気があったわ」」
 そこまで話すと、先輩は花瓶を自分の目の前に置いた。
「佐知子は、夏休みに家族でエジプトに旅行に行ったんだけど、現地でお腹をこわしたの。慣れない土地で水が体に合わなかったのね。最初はすぐによくなるだろうと思ったけれど、次の日になってもいっこうによくならない。歩くこともできないような激痛が続いた。とうとう我慢できなくなって、街で薬を買ったらしいんだけれど、渡されたのが何かの植物の種だったの。黒くて小さな種」
 私に近づけた顔に汗をにじませていた。
「佐知子はひまわりか何かのように食用の種だろうと思って、買った種を飲んだの。だけど、飲んだ後からますます体調が悪くなった。胃が痛いし、吐き気が一日中止まらない。暑いはずなのに寒くて体が震える。仕方がなく気分が悪いまま日本に帰ってきて、病院に行ったの。そうしたら恐ろしいことが分かったの」
恐ろしいという所を強調するようにゆっくりと話した。私はのどを鳴らしてつばを飲み込んだ。
「どうだったんですか?」
「佐知子の胃に根をはって植物が生えてきてたのよ。あり得ないって医者は驚いていたけれど、植物はどんどん生長して、何日かすると口から茎が出てきて、葉が生えたわ。土に生える植物のような普通の葉よ。それと反比例するように佐知子の体はしだいに力が入らなくなって、しばらくして寝たきりになったの」
 玲子先輩は、じっと花瓶の赤い花を見つめながら話を続けた。
「佐知子の口からは、三本の茎が出て来たわ。ベッドの上での生活が一ヶ月を過ぎようとしたころ、全ての茎の先端に赤いつぼみがついたの。いつ花が咲いてもおかしくないような状態なのに、なかなかつぼみは開かなかった。でも、クリスマスイブの日に行ったとき花が咲いていたの。衝撃だったわ。可憐で美しい花。繊細で今にも散ってしまいそうだった。それが佐知子の口の中に刺さるように立っている」
 眉を細めて遠くを見つめる。
「私はどうしても花が欲しくなって、いやがる彼女の口から強引に一本抜いたのよ。それがこの花ってわけ」
 目の前の花が、人の体の中で育ったもの?
「嘘……。ですよね?」
 人の体の中で植物が育つだなんて、信じられるわけがない。先輩はきっと私が自分と同じくらいに綺麗だから嫉妬してからかっているだけだ。きっとそうに違いない。
「私の話は全て本当よ」
「高校の時に手に入れたのに、まだ花瓶の中でしおれていないのはおかしい。それに何年間もクリスマスイブにだけ咲くなんていうことがあるわけないわ。からかわないでください」
 先輩は顔色一つ変えないで、赤い花を撫でた。まるで自分の子供をいたわるような優しい手つきだった。
「信じられないのも無理はないわね。不思議な話だもの。でもね、花を手に入れてから、自分の姿が日増しに美しく変わっていったわ。まるで、佐知子の命の一部を受け継いだようにね」
 枯れない花。生けているだけで、自分を美しい姿でいさせてくれるだって? 持っているだけで幸せになれるペンダントとか、お金が貯まる財布とかいろいろあるけれど、みんなインチキだ。
でも、目の前の花はただで手に入るものだし、蛍光灯の光がなくてもぼんやりと神秘的な光を放つ赤花を見ていると、もしかすると先輩の人並み外れた美しさは、本当に花の力なのかもしれないと思え始めてくるから不思議だ。それに、どういうわけか、見ているだけでなんとかして自分のものにしたいと思わせる魅力があった。
「不思議で美しい花。私も手に入れることができないでしょうか?」
 細い眉がかすかに動いた。困ったときの反応だ。
「どうだろう。何年も前の話だし、花は三本しか咲かなかったからね。もう全部抜いてしまったのかもしれないわ。それに、抜くときかなり痛がっていたから、残っていたとしてもあげるとは言わないと思うわよ」
「かまいません。確かめることはできますから、佐知子さんの入院していた病院の場所を教えてください」
「彼女なら、一ヶ月ほど入院した後は退院して、自宅で療養していたはずよ。訪ねてみたら?」
 机を探って古いメモ帳を取り出し、私に差し出した。住所録らしい。
「引っ越ししていなかったら、会えるはずよ」
 慌てて部屋を出ようとした私を呼び止める。
「なぎさの一番好きなクリスマスソングって何?」
「私ですか?」
 急な質問に戸惑いながら口を開いた。
「特にないです。クリスマスに特別な感情はありませんから」
 外に出ると、家まで全力で走った。早起きして、佐知子さんの家を訪ねるつもりだった。

佐知子さんが住むという家の周りは、草を栽培しているような生え放題の状態だった。もともと生えていただろう木は、破片が腐って虫が集まっている。
家は珍しいヨーロッパ風の作りで、二階建ての立派なものだった。ただ、白い壁はペンキがはがれ落ち、所々に穴が開いていた。
「人は住んでいなさそうね。残念だけど、きっと引っ越ししたんだわ」
そうつぶやきながら、足早に玄関に向かい、呼び鈴を押した。すると、意外なことにすぐに扉が開き、初老の男性が顔を覗かせた。私は驚いて思わず声を出した。
「おやおや。驚かせたかな」
 背は私と同じくらいで、白髪の似合う男性だった。優しそうな目をしていて気むずかしそうではなかった。耳につけた補聴器のようなものが目につく。
「突然訪ねてきてごめんなさい。こちらに佐知子という女性が住んでいませんでしょうか?」
 男は探るような目でしばらく私を見つめた。
「佐知子のお知り合いかい。じゃあ、お入りなさい」
 私は男の後に少し離れて続いた。家の中には照明というものがなく、薄暗い。夜に訪ねていたら、間違いなく帰っていただろう。暗闇は幽霊が出そうで苦手なのだ。
「別なお客さんが来ていますから、しばらく待っていてください」
 豪華なソファーのある部屋で男はそう言った。私が座るのを確認して、男は補聴器を手で押さえながら部屋を出ていった。
「佐知子さん、引っ越していなかったみたいね。でも、この屋敷はひどいわ。もし住んだとしたら不気味すぎて、夜トイレに行けないじゃない」
 窓の外は雑木林。赤く染まり始めた木々が風に揺られていた。訪ねてきた目的も忘れ、景色を眺めていると、案内してくれた男性が、紅茶を持ってきてくれた。
「もうすぐ終わると思いますので、紅茶でも飲んで待っていてください」
 私はお礼を言うと、砂糖を入れスプーンでかき回した。一瞬にして、心地よい香りが漂った。
 優雅な気持ちに浸りながら、紅茶に口を付けた。しかし、急に咳き込んで、少し紅茶をスカートにこぼした。
「大丈夫ですか?」
 駆け寄る男を制し、
「少し熱かっただけですから、気になさらないでください」
 本当は違っていた。何かが喉につかえたように感じたのだ。風邪気味のせいかもしれない。
 早く用件を済ませて帰ろう。

 紅茶を飲み終えたころ、
「もうそろそろいいでしょう」
男は私を別な部屋へと案内した。今度の部屋は、入口のドアが金色の装飾品で飾られていた。中に入ると部屋の中央にベッドが一つ置かれていた。会えると思っていた佐知子の姿はなかった。
「誰もいないようですけど、佐知子さんはどこですか?」
 男は何も答えず。じっと私の様子を観察するように眺めていた。
「佐知子さんに会えないのなら私帰ります」
 部屋を出ようと一歩踏み出した瞬間、急に気分が悪くなった。吐きそうで吐けない胸の苦しみだった。
男は大丈夫ですか?と問いかけながら私をベッドに腰掛けさせた。
「実は、佐知子さんは、一ヶ月前に亡くなりました。彼女が使っていたのがこの部屋なんです」
 近くで話しているはずの声が遠くの方で聞こえた。
「お会いして花を頂こうと思って来たのですが、残念です」
「やはりあなたも花をもらいに来たのでしたか。でも、そうがっかりすることはありませんよ。花ならありますから」
 私は重い体を跳ね上げた。
「どこに花はあるんです? 一輪でいいので譲ってください」
「まあまあ、そう焦らないで話を最後まで聞いてください。佐知子さんの体内に生えた植物は、人間の体の養分を吸い上げる植物です。花が咲く頃には栄養が体に行き渡らなくなって、体を動かすことはできなくなります。しかも、胃に根を張り、成長を止めることはできません。さらには、全ての茎が抜けると同時に養分を吸い尽くし、寄生していた人を殺すという恐ろしい植物でした」
 男は昔を懐かしむように遠い目をしながら語った。
 佐知子さんの体内に生えていた三本の茎が全て抜け、彼女は死んだのだろう。悲しい話だ。自分が死んだ後も寄生していた花は生きているなんて。
「貴重な花のようですので、欲しいとは言いません。佐知子さんの体内に生えていた花を見せていただけないでしょうか?」
「佐知子さんの花は、もう一輪も残っていません」
「でも、花はあるって言ったじゃないですか」
「確かに花はあります。でも、佐知子さんの花ではなくて、別な女性の花なのです。植物が生えてきたのは彼女だけではありませんからね。彼女たちは別な部屋にいて、花が欲しいという依頼人を待っています」
 そうか。佐知子さんと同じように花の生えた人たちが何人もいて、ここで生活しているんだ。別に美しくなれる花なら誰のものだっていい。
「私も花が欲しいんです。花が生えた女性に会わせてください」
 私の言葉を聞いて、男は急に厳しい表情になった。
「あなたはあまり鋭い方じゃありませんね。貴重な花をただで配ったりするわけないでしょう。花をもらえるのはお金を払った人だけです。大切に栽培して、高く買ってもらっているんですよ」
 不気味に笑って耳の補聴器をいじる。
「人間の体に生えているから、肥料を溶かした水を口から流し込んだり、口を開け続けるように固定したりと大変なんです。彼女たちにしてみればかなりの苦痛でしょうが、動けないから拒否はできませんからね」
「幾らなんですか? 花一輪」
「百万円をいただいております。高いと思うかもしれませんが、世の中には美しくなるためにはどんなことでもするという女性が結構いましてね。よく売れていますよ」
 私は悩んだ。確かに値段は高いし男のやっていることは異常としか思えない。でも、花を手に入れたいという強い欲望が生まれていたのも事実だった。気にかかっていたのは、もし私が最後の一輪をもらうことになったら、私のせいでその女性は死ぬことになるということだ。まるで自分が殺人犯のようではないか。罪の意識を感じそうだった。もちろん、男の話が真実ならばだ。
 さんざん考えたあげく、男にこう告げた。
「分かりました。百万円払います」
 意を決して言った言葉にも男は、落胆の表情を浮かべて、ため息をついた。
「私はあなたに花を売ろうとは思っていません。売るつもりなら、玄関であなたが佐知子さんに会いたい言ったときに花が欲しいのならお金がかかることを言いますよ」
 どういう基準で売る相手を選んでいるのか知らないが、とにかく私は男の審査に不合格だったらしい。それにしても、売るつもりがないのならどうして私を館に招き入れたりしたのだろう?
「まだ分かっていないみたいですね」
 体に電気が走ったような気がした。胃が痛い。立っていられないほどの激痛だった。
 小刻みに震える私を見下ろし、男が言う。
「遠回しはやめて、はっきりと言いましょう。あなたは、人体植物栽培用の容器として売られたんですよ。花を手に入れたくてもお金を払えない人間は、お金の代わりに花を栽培するのに適した美しい女性を提供することになっているんです」
 意識が飛びそうになった。
 はめられた。玲子先輩は花を買ったけれどお金が払えなくて、私を生け贄にしたのだ。先輩の話もきっと嘘。私をこの館に行かせるための作り話だったのだ。先輩が美しくなるためだったら何でもすると言ったのは本当だった。私を生け贄にして花を手に入れるなんて。
 早く逃げないと、本当に種を飲まされ、植物を育てる容器として使われ殺される。
 私は出口に向かって駆けだそうとした。しかし、すぐに立ち止まった。自分が今感じている胃の痛みや胸の気持ち悪さの原因が、体の中で何かが育っているせいだということを感じたからだ。信じられないことだが、すでに自分の体の中に何かが宿っている。
「人体植物の種は不思議なことにガラスのように透明で、ゴマのように小さいんですよ」
さっき飲んだ紅茶。のどに詰まったように感じたのは、種だったのか。人体植物の。
「あなたのような美しい女性なら、さぞ綺麗な花が咲くんでしょうね。かわいそうですが、さらに美しくなろうだなんて欲をかくからこういうことになるんです」
 私は醜く顔をゆがめ、しびれる体に力を込め、亀のように床をはった。
「花を引き抜くとき、自分の体が引きちぎられるような痛みを感じるそうですよ。三本咲きますから、二本は痛みで死なないようにがんばってくださいね。三本目はいいです。どうせ死ぬんですから」
 スーパーの店員のように機械的に言うと狐のように目を細め、にやりと笑った。
「あなたの好きなクリスマスソングは何です?」
 男はしきりに補聴器をいじる。
 外を吹く柔らかな風が、優しく窓を揺らした。外の光のまぶしさに目を細めたとき、隣の部屋から、喉を引き裂かれたような若い女性の叫び声が聞こえた。
 断末魔の叫び声だった。
 男は補聴器に手を当て恍惚の表情で、その音楽を聴いていた。

END