昨日までの台風が嘘のように晴れわたった空。雲一つない青一色。道に散らばった紙くずや空き缶が悲しく見えた。俺は大学の講義に出席するため、いつものように駅に止めた自転車の鍵と格闘していた。
「くそっ、今日の鍵はいつにも増して不機嫌らしいな。外れやしない」
鍵がさびたから買い換えようと思っていたのだが、まだ使えるからとそのままにしていた。
ぶつぶつ文句を言っていると、背後から声が聞こえた。ドラマのヒロインのような澄んだ美しい声に、俺はすぐに反応して振り返った。
ショートカットで、目鼻立ちのはっきりとしたかわいいタイプの女性だった。年齢は俺と同じくらいだろうか。まだあどけなさが残っている。
「友達と『ぱすてる』っていう名前の喫茶店で待ち合わせしているんですけど、場所が分からなくて困っているんです。知っていたら教えていただけないでしょうか?」
『ぱすてる』ならよく知っていた。古い置き時計が所狭しと飾られた雰囲気のいい喫茶店で、休講になったりして時間があるときにたまに寄る。コーヒーより紅茶がうまい。
「この道をまっすぐ行って、最初の交差点の角ですよ。今ならまだランチに間に合います。もし食事がまだでしたら食べてみたらいいと思いますよ」
「ちょうどお腹が空いていたところなんです。ランチがおいしい店なんですか?」
「日替わりで、夜と同じメニューが半額くらいで食べることができますからね。お得なんです。まあ、メニューを選べないから嫌いな献立だったらダメですけど」
女性はピンク色の唇に人差し指を当てた。なんとも魅力的な仕草だった。
「あなた、喫茶店のランチはよく食べるの?」
「たまにですけど。安くておいしいから幸せな気分になれるでしょ」
「幸せねえ……」
「大学の食堂もいいんですけれど、混んでいるし、毎日じゃあ飽きますよ。ああ、言い忘れていたけれど、俺は大学生なんですよ」
彼女は俺の話など聞いていない様子でしばらく考えた後、一歩近づいてこう言った。
「行くと幸せになれる場所があるんだけれど、行ってみる気はない?」
「幸せになれる場所……ですか?」
とてもロマンチックで女の子らしい話題だ。でも、見ず知らずの、会って数分しか経っていない相手に言う台詞じゃない。
「あまり乗り気じゃないみたいですね。もう十分に幸せだからこれ以上幸福を求めないとか、そういった感じの人なのかしら?」
幸せになりたいだなどと考えたことはなかった。今が幸せだからだとかそういうわけではなく、毎日ただなんとなく生活するだけで、難しいことは考えたことがなかった。ただ、苦労もしないで楽に生きていけたらいいなとは思う。金持ちの家に生まれ、何の苦労もなく生活していくことができたのならどんなにいいだろう。
「楽して生きられたら、幸せだとは思います。でも……」
「でも、何?」
「無理ですよ。俺の友達は皆、就職のために、いろいろな専門学校に通って資格を取るためがんばっているけれど、俺は何もしていませんから。何とか小さな会社に就職するのがやっとです。それを幸せなことだと感じられるように努力しますよ」
女はあきれたように首を横に振った。
「今度の土曜。午前九時。この場所で待っているから、来なさい。私が幸せの館、ハッピーハウスに連れて行ってあげるわ」
それだけ言うと、彼女は早足で歩き始めた。
俺が呆然として見送っていると、彼女は突然振り返って言った。
「あっ、そうそう。着替えを忘れないでね」
風で転がった空き缶に気を取られている間に、彼女姿は消えていた。
俺が教えたのとは逆の方向に彼女が歩いていったのに気がついて追いかけたが、見つけることはできなかった。
「何なんだ今の女は。初対面なのに慣れ慣れしい態度で話しかけてきやがって」
文句が口から出た。でも、かわいい女性と話ができて悪い気はしていなかった。
「そう言えば、名前を聞けなかったな」
再び自転車の鍵を外そうと屈んだ。今度は簡単に外れた。
「土曜って言っていたな」
土曜と日曜は、所属する水泳部で合宿をして大会に出場するレギュラーを決める日だった。コーチは礼儀にこだわる人だから欠席したら選んでもらえなくなることは間違いない。
でも、もはや泳ぐことに情熱を失っている俺にとってはどうでもいいことだった。ついでだから、これを機会に部活を辞めてもいいと思った。
「行くのはいいとして、着替えを持ってこいとはどういうことだろう?」
宗教や怪しいセミナーに連れて行かれそうだったら途中で帰ったらいい。
自転車にまたがると、俺はいつものように大学へと向かう坂を上った。風が心地よくて、自然に笑顔になった。
日曜日。俺は部活の連中に会わないように注意しながら、待ち合わせ場所に急いだ。デートに行くときのようなウキウキとした気分と騙されているのではないかという不安な気持ちが入り交じり、不思議な緊張感があった。
「遅いなあ。九時って言ったのに。もう三十分も過ぎてる」
いらいらしながら、煙草に火をつけようとした瞬間、目の前に車が止まった。赤いスポーツカー。助手席の窓が開いて、中の人物が俺に手を振った。一昨日会った生意気な女だ。
「早く乗って。置いてくわよ」
俺は黙って彼女に従った。サングラスをかけ、シートに深く腰掛けてステアリングを握る姿が幼さの残る彼女の容姿とミスマッチして、なんだかとてもいじらしく見えた。
彼女に名前を聞くと西脇遙と答えた。遙というのは俺の初恋の女の子と同じ名前で、運命的ともいえる出会いに感激した。
遙は俺の質問に答える以外は終始無言で、車を走らせた。
「幸せの館っていうのは、どんなところなんですか?」
「一日泊まるだけで幸せになれる魔法の館よ。まあ、私はハッピーハウスって呼んでるけどね」
遙は面倒くさそうに答えた。
「ハッピーハウス」
俺がつぶやいたのに反応して彼女が声を出した。
「発音が違うわ。ハッピーハウスよ」
ネイティブのように舌を巻いて発音する遙の唇を見て、胸が躍動した。
要するに遙の言うハッピーハウスとやらに一泊すれば幸せになれるというわけだ。着替えを持ってこいというのは、宿泊するからだったのだとやっと納得できた。
「お金が必要だったり、何か怪しげなセミナーだったりしないですよね」
「もちろんお金は必要ないし、普通のホテルに泊まるときと同じように、自分の好きなことをしたらいいわ。ただ、二人で一部屋だから、あなたと同じ部屋には誰か別な人物が泊まるでしょうけれど」
二人で一部屋と聞いて、遙と二人きりになれるのかと想像したけど、そんないい話はあるわけない。
景色を眺めていると、遙が手を差し出した。手のひらにはアイマスクが乗っていた。
「何これ」
「見れば分かるでしょ、アイマスクよ。館の宿泊は無料だけど会員制だから、場所を知られたくないの。到着するまで目隠しをしてちょうだい」
俺はしぶしぶマスクをして、カーステレオから流れる音楽だけを楽しみに目的地に着くのを待った。遙の慣れた態度に接している内に、今まで何人の男が俺と同じように館に連れて行かれたのだろうかと考えるようになっていた。
彼女はただの案内人。俺に特別な感情を抱くわけがない。
このあとの別れを想像して、そう自分に言い聞かせた。
遙の髪から漂ってくる甘い香りに酔いしれていたら、いつの間にかに眠りに落ちた。
霧が晴れるように視界が広がると目の前に青い建物があった。館という言葉がぴったりの西洋風の建物で、二階の窓が太陽の光を反射して、幻想的に輝いていた。
「やっとお目覚め。もう着いたわよ」
いつの間にか、アイマスクは取られていた。
「幸せの青い館か、どっかで聞いたことのあるような話ですね」
「気にしない気にしない。とっとと降りてよね。受付を済ませるから」
遙は俺を急かせて降ろすと、自分だけ走って玄関に向かった。
俺はゆっくりと館を眺めた。今まで映画の中でしか見たことのないような立派な建物。一泊するのかと思うと少し緊張した。
建物に入ると遙が駆け寄ってきて部屋の鍵を差し出した。
「私はもう帰るけれど、ちゃんとここの人たちの言うことをきいて、粗相のないようにするのよ」
「ど、どうもありがとうございました」
「帰りはバスで送ってもらえるから、遅れずに乗るのよ。それと今日はゆっくり休むこと。修学旅行じゃないんだから、夜更かししちゃダメよ」
遙はドアから出るまでしゃべり続けた。俺は彼女の車が見えなくなるまで見つめた。
建物に戻り、突っ立っている案内係らしき男に自分の部屋と食堂の場所を訊いた。男は親切さ丸出しの笑顔で答えたが、俺が部屋に向かおうとするとき気になることを言った。
「一泊していただきますが、絶対に他の部屋の人と話をしないでください。たとえ廊下ですれ違っても、挨拶はなしです。もちろん、朝の挨拶もしてはいけません。唯一のルールですので必ずお守り下さい」
俺は無言で頷き、二階への階段を上った。気が軋む音が、不気味に響いた。
泊まるのは、二階の角部屋だった。窓が草原のある方角に向かっていて、景色が良さそうだなと期待した。俺が部屋に入ると、ベッドに男が一人横たわっていた。顔を隠すようにして漫画を読んでいる。
俺が来たのに気がつくと、
「あんたが、相部屋の人かい」
と野太い声を出した。見かけは二十代前半で、俺よりは年上のようだった。細い目の奥の瞳は、俺を探るように細かく動いていた。
俺が簡単に自己紹介とここに来たいきさつを説明すると、男は安心したのか、警戒心を失った目になった。
「俺もあんたと同じだよ。西脇遙という女性に駅で声をかけられ、車で連れてこられた。必ず幸せになれるからってな。俺の名前は辻道彦だ。よろしく」
ぶっきらぼうだが、悪い人ではなさそうで安心した。
「一泊したら幸せになれるって本当でしょうかね」
「知らないよ。あの女はインチキ臭かったから、どうせ騙そうとしているのさ。館に俺たちを泊めて何をたくらんでいるのかは知らないけど、やってくれるぜまったく」
騙されると分かっていて来るとは思えない。やはりこの男も、遙の魅力もさることながら、もしかすると幸せになれるかもしれないという淡い期待があったからこそ誘いに乗ったに違いない。
「何もしないで一日過ごすのなら、店に出ればよかったな」
「働いているんですか?」
「当たり前だろ。君のように大学にでも行っていなきゃ、二十歳過ぎの男だったらほとんどやつが働いているさ」
辻は漫画本を床に投げ捨てると、天井を向いて寝転がった。
「俺はイタリア料理の店で働いているんだけど、今日と明日は料理コンテストの出場選手、店の代表ってやつを決める日だったんだよ。俺もまだまだ未熟だけれど、挑戦してみようかと思って店長に選考会に参加させてもらえるように頼んでいたんだ」
「重要な日じゃないですか。間に合うのなら、今からでも行ったらどうです」
「もういいさ。どうせ今から行っても遅刻だから、選ばれやしないよ。選考会に参加して、君は料理の才能がないと言われて落とされるのが怖くて逃げてきたようなものさ」
いきがって店長に言い寄ったけど、直前になって自分の未熟さと甘さに気がついたのだろう。
「辻さんもまだ若いんですから、これから何度もチャンスはありますよ。俺も今日は水泳部のレギュラーを選ぶ合宿の日だったんですけど、サボっちゃいましたよ。似たもの同士ですね」
「あんたも自信がなかったのか?」
「自信がないというより、俺の場合は、もう水泳に情熱がなくなったからですかね。今日限りで水泳部を辞めて、いい会社に就職できるように資格を取る勉強でもしますよ」
「不景気だと、大学生もいろいろ大変なんだな。今度店に食べに来なよ。安くはできないけど、デザートの一品くらいサービスするよ」
俺は笑顔ではいと返事をした。
風呂はないと聞いていたので、晩ご飯を食べるとすぐに布団に潜り込んだ。食堂では自分たち以外にも何人かが食事をしていたが、一様に皆うつむいて視線を合わそうとしなかった。会話をするなと言われていたのもあるし、幸せになりたいと思って来ていることが、まるで自分は不幸ですよと言っているようで恥ずかしいのだろう。
俺は明日になったら幸せになっているのだろうかと、少しは期待しながら眠りについた。風で窓が揺れる音が、いつまでも耳に残っていた。
朝起きると、朝食も食べないうちに案内役の男がやってきて、部屋を出るように言った。
「それじゃあ、辻さん。料理がんばってくださいね。必ず食べに行きますから」
俺は料理人としてがんばっている辻にあこがれを抱き始めていた。
「あんたもがんばって就職先をさがしな。決まったらお祝いの料理を作ってやるから連絡しろよ」
雑な言い方にも温かさがあった。
一階に下りると、辻との別れを惜しむ間もなく、バスに乗せられた。そして、来たときと同じように目隠しをさせられた。知らない駅で降ろされると、俺は一人家に向かった。いつも通りの何も変わっていない自分だった。
次の日になっても、特別に自分が幸福になったとは思えなかった。いつものことをいつも通りに繰り返すだけだった。変わったのは、部活を辞め、帰る時間が早くなったことだけだった。
「辻さんの言うとおり、騙されたのかな」
よく考えれば当たり前の話だ。寝泊まりしただけで幸せが訪れる家などあるわけがない。全ては幻。夢を見ていただけだ。
「嘘をつかれたのは悔しいけれど、辻さんとも知り合えたし、損をしたことは何もないんだからよしとしよう」
俺は自転車に鍵をかけると、駅へと歩いた。ニュースで台風が近づいていると言っていたせいか、早い時間なのに混雑していた。
一ヶ月経っても幸運は訪れなかった。それどころか、自転車で転倒し右腕を骨折した。通学や勉強するのにも不便で、就職活動どころではなくなっていた。まるで、館に泊まって幸福になるどころか不幸になった気さえしてきた。
同じ部屋だった辻がどうしているのか気になって、教えてもらった連絡先に電話すると、俺と同じように幸せな出来事など何もないという。
「幸福になるだなんてとんでもない。俺は選考会をサボったおかげで店長から嫌われて、先週店をくびになったよ。まったくあの女、騙しやがって」
怒りがおさまらない様子で吐き捨てた。
「遙という女性が俺たちを騙したとしたら、どんなメリットがあったんでしょうね。俺たちは一円たりともお金を払っていないわけですし、休みの日に俺たちを車で館、彼女が言うハッピーハウスに運んでも時間の無駄でしょう。何の得にもならない」
「宗教なんじゃないの。一人でも多くの人間を館に連れてきたら、自分に幸福が訪れると信じているのかもしれない」
「普通の建物だったし、怪しげな宗教には見えなかったですよ」
辻はしばらく沈黙した後、こう切り出した。
「西脇遙にもう一度合って、どういう事情なのか説明してもらわないか?」
一言でも文句を言ってやらないと気が済まないといった様子だった。
「でも、彼女の住んでいる場所もしらないし、見つけられないんじゃないでしょうか」
「俺たちが遙に会った駅があるだろ。遙は偶然に俺たちに話しかけたんじゃない。獲物をとらえるように計画的に狙っていたのさ。あそこで張っていたら新しい獲物を探しに現れるはずさ」
道を訊く振りをして、本当は最初から幸せの館に連れて行くのが目的だったわけか。
「分かりました。さっそく今日から駅で見張りましょう」
遙が現れるのを期待して待ち伏せしたが、何日たっても遙の姿は見つからなかった。
朝から晩まで、いつ現れるとも分からない人物を待って待機していると一日が何倍にも長く感じられた。一週間が経つ頃には、最初感じていた絶対に見つけてやるという情熱は冷めてきていた。
それでも、あきらめきれない俺たちは、今日も朝からビルの陰に隠れて、駅前を見張っていた。
「今はもう別な駅で活動しているのかもしれないですね。同じ駅だと俺たちのように文句を言いに来る奴に捕まるかもしれないですから」
俺がそう言ったとき、やる気がなさそうな態度で煙草を吸っていた辻がいきなり立ち上がった。
「おい、見ろ。通りの向こう側を歩いている女性。遙じゃないのか」
言い終わる前に、辻は走っていった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
距離があったから、もう少し確かめてからにしたほうがいいと思いながらも、遅れないように全力で追いかけた。
俺が辻の横に立ったときにはすでに彼は怒鳴っていた。
「おまえ騙しやがったな。幸福になるどころか不幸になったじゃないか。どうしてくれるんだよ」
遙はいたって冷静な態度でサングラスを取ると、ゆっくりとした口調で言った。
「幸せになってるわよ。希望通りにね」
辻も俺も、遙の自信満々な態度に一瞬ひるんだ。
「心当たりがないだなんて鈍感ね。もう一度よく考えてみることね」
俺は辻と顔を見合わせ、お互いに首を横に振った。
「分からないんだったら教えてあげるわ。あなた達がハッピーハウスに泊まった日。二人とも何か重要なイベントがあったんじゃなくて?」
確かにあった。俺は水泳部のレギュラーを決める合宿。辻は料理コンテストの出場選手を決める日だった。
「それがどうした。二人とも参加できなくて落とされたんだぞ。不幸な話じゃないか」
「これだから素人さんは困るわね。いいわあなた達にでも分かるように説明してあげる。この間、あなたは喫茶店のランチはお得だと言ったわよね」
「は、はい。確かにいいました」
急に話を振られた俺は、どぎまぎしながら答えた。
「得というのは誰にとって得なの? もちろんあなたは自分にとって得だと思ってランチを食べているかもしれないけれど、数種類の同じメニューを作るだけで済むから簡単に作れるし材料費も安くなるから店にとっても得なわけよ」
「意味がよく理解できないんですけど」
まだ話の意図を理解していない俺たちの様子を見て、遙はイライラした口調になった。
「立場を変えて考えなさい。私はあなた達が幸せになるとは一言も言っていないわよ。あなた達がハッピーハウスに泊まって幸せになるのは、あなた達を一日監禁するようにお願いしてきた、依頼者なのよ」
呆気にとられる俺たちに吐き掛けるように続ける。
「水泳部のレギュラーや料理コンテスト代表の座を掴んだあなた達のライバルが、幸せになれたということよ。私たちは依頼者にとって邪魔な人間を、指定された日に監禁することでお金をもらう幸せ製造業者なのよ」
怒る気力がなくなったのか、辻はしおれた花のようにうなだれた。あまりに衝撃的な内容で、言葉もないのだろう。仲間だと信じていた人間に陥れられたのだから仕方がない。幸いなことに、もともと水泳に情熱を失いかけていた俺にとっては、あまりショックではなかった。むしろ、自分の実力が認められていたようで、嬉しい気分でもあった。
俺は遙の楽しげな後ろ姿を見送りながら考えた。
依頼者は本当に幸せになれたのだろうか? 俺からレギュラーを奪った奴も、辻の代わりに代表に選ばれた人物も、実力がなければ結局はこの先苦労するだけで、何も幸運など手に入れてていないのではないだろうか。むしろ、努力しなければ幸福にはなれないと身をもって知ることができた俺たちの方が幸せなのではないだろうか。
「遙さん。人を騙すような仕事をしているあなたは幸福なんですか?」
叫んだ俺の言葉に反応して振り向いた遙の横顔は、夕日を受けて寂しげに見えた。
END
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